私たちの歯は人それぞれで、生まれつき硬くてむし歯になりにくい歯もあれば、むし歯になりやすい軟らかい歯もあります。
 歯の硬軟は遺伝子や、歯が歯肉の中で形成される幼児期の健康状態と、栄養摂取に影響されます。当たり前のことですが、丈夫な歯を作るには健康を保つことと、バランスよく栄養をとることが大切です。短絡的に歯の主成分のカルシウムを、たくさん摂取すればよいと考えられがちですが、歯の形成に影響するほどカルシウム不足を心配する必要はあまりないようです。
 それより、フッ素を多く含有した海産物を食べるよう努力した方が効果的です。歯が作られはじめる胎児の時期から、永久歯列の完成する12歳ごろまで、フッ素をはじめ、歯の原料を多く含む小魚を骨ごと食べていれば、歯の内部まで、耐酸性の高い歯になります。また、井戸水など土壌を通過した水は土壌中のフッ素を含んでおり、生活用水として井戸水を使える環境の人は丈夫な歯が形成されます。
 日本ではフッ素を生活用水に添加してむし歯予防に活用していませんが、米国では6割以上の国民がフッ素入りの上水道を利用しています。そのためか、むし歯の発生率は激減し、日本人より砂糖の消費は多いにもかかわらず、むし歯保有率は、はるかに少ないのです(1987年の調査で米国の5〜17歳でむし歯がない子供は49.9%で、日本の5〜15歳の子供はわずか6%)。これほどの差がつくほど日本の子供たちが歯磨きを怠っているとは思えないので、やはりフッ素の利用状況の違いが、この差の大きな要因と考えざるを得ません。(ちなみに、日本国内にある米国の基地内では、フッ素化された上水道を利用しています)


 今の日本では、米国のように、一番手がかからない公共上水道にフッ素を含有させる方法で、むし歯予防ができるようになるとは考えられないので、各自その利用法を考えなくてはなりません。私は、うがいができるようになった子供さんにはフッ素のうがい薬をお勧めしています。幼児期に行えば、微量のフッ素が体内に吸収されるので、乳歯の下で形成されている永久歯も丈夫になります。新潟県では多くの小学校で、全校挙げてフッ素うがいが行われていると聞いていますが、むし歯予防に大きな成果を上げているようです。
 いくら丈夫な歯といっても、しょせんカルシウムの化合物です。酸に触れれば溶解してしまいます。幼児期ほどではありませんが、成人してからも歯の表面については、フッ素のうがい薬やフッ素入りの歯磨き剤を使うと効果があります。とくに、歯肉が下がって歯の根の表面が露出してしまった人には使用をお勧めします。根の表面はエナメル質に覆われていないので、耐酸性が弱いからです。フッ素入りの歯磨き剤は、フッ素濃度の明示されたものを使いましょう。




 歯は体の他の器官と違って、一度ある程度のむし歯や歯周病にかかってしまうと、自然治癒するということはありません。ましてや、削ったり抜いたりした歯は二度ともとに戻らないもの。歯の大切さを考えたら、できてしまったむし歯をそのつど治療するという対処療法より、できるだけむし歯にならないように、予防に力を入れる方が賢い方法といえます。
 予防は、家での歯磨きや食生活に気をつけるとともに、歯科医と協力して行っていくことが大切。むし歯や歯周病の初期は、自覚症状が少なく、自分ではわかりにくいもの。定期的に検診を受けて、これらの病気をチェックしてもらいましょう。発見が早ければ、治療も簡単に済みます。また、ごく初期のむし歯なら、その後の経過しだいによってエナメル質が再びかたくなり(再石灰化)、むし歯が進行する可能性が低くなることもあります。むし歯になりやすいなどの口の中のリスクは人によって違います。歯科医と相談して、自分に合った頻度で検診を受けましょう。また、お口の中の写真を撮ってもらい、説明をしてもらえば、状態がよくわかります。


 検診では、むし歯や歯周病などのひととおりの検査とともに、最後にかかったカルテをもとに、その人がなりやすい疾患を重点的にみてもらえます。たとえばむし歯を治療していた人なら歯の状態を、歯周病にかかっていた人なら歯肉の状態を詳しくみてくれるのです。これは、かかりつけの歯医者さんを持った人の強みで口の中の状況を把握してくれているので少ない時間で効果的な検診を受けることができます。